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めぐみは気を失っていたようだ。
気が付くといつもの自分の部屋に寝かされていた。
部屋を出るとめちゃめちゃになっているリビングに、佇むおじいちゃんとおばあちゃんが見えた。
「一体、これは何だ・・。」
静かなリビングに、おじいちゃんの声が響いた。
おばあちゃんのすすり泣く声が聞こえる。
めぐみは、リビングに行くのをためらった。
2人の邪魔をしていけないような気がした。
めぐみは、仕方なく廊下に座り、二人の会話を聞いていた。
おばあちゃんが、口を開いた。
「あなたが悪いのよ。佐和子が悪いんじゃない。悪いのはあなたよ。」
「俺が何したって言うんだよ。分かるように説明してくれないか。」
「あなたのお父さんよ。佐和子を虐待していたのよ。気が付いたときには、佐和子は壊れていた。
佐和子の中に、凶暴な人格を持つもう一人の佐和子が生まれてしまった。
お父さんの虐待のせいよ。」
「親父が・・まさか・・そんなはずないだろう・・」
「あなたはいつもそう。都合が悪いと見ないふり。あなたの目には肝心なものが写らない。あなたも何度か見ている。
私には、あなたが変に思わない方が不思議だったわ。
それに、まだ気が付かないの?お父さんを殺したのは佐和子なの。」
「親父は事故だ。警察もそう言った。親父は事故死だ。」
「よく考えてみて、変だと思わないの。足の悪いお父さんが一人であんなところに行くと思う?
殺したの、佐和子がやったの。
それからの佐和子には地獄の日々だった。
元々壊れていたのに、罪の大きさがさらに佐和子の頭をおかしくした。
佐和子は生きる事すらままならない状態に陥ってしまったわ。
その間、凶暴な人格の佐和子が本来の佐和子を支えた。
佐和子は生きるために、凶暴な人格の佐和子を容認しなければならなかった。」
「どうしてあの時、言わなかったんだ。」
「言いたかった。
言いたかったけど、あなた、家に居なかったじゃない!
無関心なあなたに相談して、解決できたかしら?
あの時は隠す以外の方法が見つからなかった。仕方がなかったのよ。
それが佐和子を守る事だった。
佐和子はギリギリのところで踏みとどまり、自分を取り戻す為に、戦ったのよ。
正気を取り戻し、別人格もたまにしか現れなくなった。
だけど、完全に消えなかったのよ。仕方がなかった。
佐和子は凶暴な佐和子と共存して行く道を選ぶしかなかった。
だから紛争地へ行っていたの。凶暴な佐和子の希望でね。
凶暴な佐和子の気持ちを静めるために、行きたくもない紛争地へ行っていた。佐和子の気持ちがあなたに分かる?私は、分かってあげたかったったの。」
「家に無関心だった俺の罪だったんだな。」
「そうよ。あなたさえ、家にいてくれたら佐和子が虐待されることもなかったし、佐和子が壊れる事もなかったし、別人格が生まれる事もなかったし、お父さんを殺すこともなかった。」
「そうか、すまなかった・・」
それから、おじいちゃんとおばあちゃんは肩を寄せ合い泣いていた。
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