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「菅原、今日は伊藤先生のパーティーがある。悪いが顔を出してくれ。」
上司の相馬は、本社で行われる朝一の会議に出席するため、今日の晩から出発しなければならなかった。
菅原は、俺に回ってくるのは子供のお使いくらの仕事しかないのか・・と内心で思ったが、上司の手前、
「わかりました。」と返事をした。
菅原はいやいやながら、会社を出て駅へ向かった。
真冬の風は、身を切るように冷たい。
コートに身を隠して歩いた。
北風と太陽の話しが頭をよぎった。
バカな妄想だ、鼻で笑いながら歩くと駅が見えてきた。
駅のホームはガラガラで、閑散としているせいか余計に寒く感じる。
考えてみたらまだ15時を過ぎたばかりだ。
この時間に帰宅する為に電車を待つ人などいるはずもない。
電光掲示板が次の電車の到着時間を知らせているが目に入った。
次の電車が来るまで12分もあるじゃないか。
うんざりしながら、駅のホームで電車を待った。
菅原は、不甲斐ない自分の実績にいらだち、不満が鬱積している。
頑張りはただ空回りするばかりで、何をどうしたらいいのか、糸口すら見いだせない日々。
磯部の輝かしい実績が羨ましかった。
俺と磯部では何が違うというのだろう。
俺に足りていない物はなんだろうかと、電車に揺られながらぼんやり考えていた。
目的地に着いたのは、17時前だった。
ここから目的地のホテルまで、歩いて5分ほどだ。
都会のビル風は、最悪だ。
ただでさえ凍る様に冷たい風だと言うのに、予測不能なくせに、体に突き刺さるように鋭く当たってくる。不愉快極まりない。
そもそも都会は、どうして歩いている人がこうも多いのだろう。
歩きづらくて仕方ない。
それにこの匂いだ。
人とすれ違う度に、甘ったるいだけの匂いが鼻をかすめる。
柔軟剤なのか、香水なのか、そんなことはどうでもいい。
何をアピールしたいのか知らないが、早くその匂いを何とかしてくれ。
気分が悪くなる。
菅原は重い足取りでホテルまでの道を歩いた。
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