菅原雄太の場合

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ホテルのロビーは落ち着いた色合いで、照明もほのかに薄暗く、落ち着く空間に仕上がっていた。 ロビーの中心にある一際大きなシャンデリアは、天井に複雑な模様を描き出している。 その模様がこの空間に合っていて、心憎い演出だと感心する。 さすが一流のホテルは洒落たことをする。 伊藤とかいう政治家のパーティーの時間まで、まだ少しある。 このままロビーにいてもいいのだが、なんとなく落ち着かない。 パーティーとはいっても、どうせ食べ物は出ない。 小腹も空いてきたところだし、ホテルの中にある喫茶店で時間を潰す事にした。ロビーを見回すと喫茶店と書かれた案内版を見つけた。 案内版を頼りにホテルの中を進む。 喫茶店までは、思ったより距離がある。 菅原は少し苛立ちながら、急ぎ足でコーヒーマークの看板を目指した。 喫茶店は明るくて、開けた空間になっている。 つき抜けるような高い天井に、視界を遮るものもなく、壁一面にはガラスがはめられ、外の景色が喫茶店の一部のように見える。 この時間、外は日が落ちてすっかり暗くなっていた。 ライトアップされた木々が、いかにも寒そうに、葉を落とした枝を揺らしていた。 菅原は入口から一番近い席に腰を下ろした。 ほどなくやって来た店員にメニューを渡された。 菅原は目を通して、ギョっとした。 ホテルのコーヒーはどうしてこんなに高いんだ。 文句も言いたくなるが、それなら来るなと言われれば、返す言葉もない。 店員の顔をチラッと見た。 細身の制服をキリっと着こなした女性店員は、視線を下に落として注文を待っている。 菅原は値段が高くて注文を躊躇していると店員にばれない様に、咳払いを一つして注文をした。 「フレンドコーヒーとサンドイッチ。」 突き返すようにメニューを店員に渡した。 かしこまりました、店員の声が思ったより涼やかで透き通るような声だった。 店員が離れると、菅原はため息をついて、天井に目をやりながらぼんやりした。 横柄な態度になってしまった事を後悔した。 バカみたい。 普通にしていればいいだけなのに、カッコつけたりして。 酷く自分が小さい人間に思えた。
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