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企画書を書き上げるのに。丸3日を要した。
作っても、何も映さない色眼鏡が出来るかもしれない。
リスクが高いだけに、慎重に言葉を選びながら、丁寧に企画書を仕上げた。
次の日の午後一、菅原は上司である相馬に企画書を見せた。
「部長、お願いします。」
上司の相馬は黙って受け取るとすぐに目を通し始めた。
相馬の顔がどんどん険しくなっていく。
菅原は不安になった。
手ごたえを感じた企画書は、これが初めてだったのに、没になったらこれまでした苦労の意味を見いだせなくなる。
相馬は一通り目を通した後、ちらりと菅原を見て、もう一度企画書に目をやった。
ここで相馬にそれらしい事を言って企画の良さをアピールしなければいけないと思うが、何も言えずに身を固くしていた。
「リスクが高すぎる。」
相馬は、企画書から目を離し、威厳のある声で言った。
その瞬間、菅原は体に入っていた力が抜けて脱力した。
企画部のエースである磯部の自信に満ち溢れた声が、急に聞こえてきた。
その声に、無性に腹が立ってきた。
「だけどな、菅原。チャレンジしてみてもいいかもしれない。頑張ってみろ。」
思ってもみない相馬の言葉に、何て答えていいか返事に困ってしまった。
そこへ、磯部がニヤニヤしながらやってきて、菅原の企画書の表題を読み上げた。
「全盲の視覚、これ、何かの冗談ですか?
見えない人の色眼鏡って、伊達眼鏡もいいところでしょう。
部長も、こんな企画にGOサインだなんてね。」
磯部はバカにでもするようにケタケタ笑いながら、言った。
「何にヒントがあるか分からんだろう。」
相馬は、磯部を軽くたしなめた。
磯部は肩をすぼめて、おどけるように詫びを入れ、部屋を出て行った。
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