菅原雄太の場合

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「一杯、やってから帰ろうか?」 田中家からの帰り道、相馬は赤提灯がぶら下がっている居酒屋を指さした。 「いいですね。」 菅原は、普段あまり酒を飲まない。 それに、会社の人と酒を一緒に飲みたいと思った事もない。 気を使わなくてはいけないし、特に話したい内容も見当たらないし、疲れるしつまらない。 それなら、家で一人コーヒーでも飲みながら、マンガを読んでいた方が楽しい。 普段なら、適当な理由をつけて断る菅原だが、今日は相馬と話をしたいと思った。 相馬の後ろを歩いて、居酒屋の暖簾をくぐり店に入った。 「いらっしゃいませ!」 威勢のいい掛け声に迎えられ、席に着いた。 熱燗に、肉豆腐を注文した。 すぐに熱燗が提供され、相馬に酌をする。 相馬から酌を受けると、くすぐったいような気がした。一気に飲み干した。 酒が通った場所が火照りだす。熱燗が体の中を流れていくのが分かった。 「部長、ありがとうございました。」 菅原は、素直に頭を下げた。 「いいんだよ。これも仕事だからな。」 相馬は軽く微笑むと、熱燗の入ったおちょこに口を付けた。 その仕草が、菅原には、やけにカッコよく見えた。 「本当ですか?先入観を払拭できるなんて・・」 「イメージだからさ。実現させる、しないの問題ではないだろう。 菅原こそ、全部本当の事なのか?」 「やってみないと分かりません。今のところすべては憶測です。」 「おいおい、ただでさえ経費の使い過ぎだと上からの圧力がすごいんだからな。頼むぞ。」 「はい、必ずそうなると信じています。」 「そうか・・」 「部長はどうして、この企画にGOサインを出したんですか?」 「決まっているだろう。信じているんだよ。菅原と同じだ。甘いと言われるかもしれないがね。」 幾分、顔を赤らめた相馬がしんみりと酒を口に運んだ。
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