白石健太の場合

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色眼鏡を作るには、後頭葉と前頭葉の一部、側頭葉の一部、脳幹の一部の摘出が必要になる。 脳の視覚部分は機能をなくすが、その他の機能は大部分が維持される。 しかし、一度摘出をするともう二度と元には戻らない。 慎重なってしまうのは当然だ。 琴子が突然倒れ、運ばれた病院で、数回の手術が施された。 結局は効果もなく棺桶に収まる琴子には、痛々しい傷がいくつも残った。 その姿を目にした時、ただ虚しくてやるせなかった。 何度も痛い思いをさせたのに、ごめん。僕は謝る事しか出来なかった。 ことあるごとに棺桶の中で眠る琴子の顔を思い出す。 あの日を忘れる事は決してないだろう。 そして、死んだ後も、琴子を切り刻むことになってしまう。 色々考えた。色眼鏡を作ろうと決心するまで、2か月を要した。 結局は、琴子を近くに感じたかった。 それに、こんな生活もそろそろ終わりにしなければならない。 琴子のいない生活を始める為の区切りが欲しかった。
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