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色眼鏡屋のドアの前に立つと、滑らかにガラスの自動ドアが開いた。
白い空間に飲み込まれるように中に入った。
牛乳に飛び込む、そんなイメージが頭をよぎった。
中は外から見た感じよりも、広い。
外から見える店内はごく一部だったようだ。
外から見えない場所には商品棚があり、有名人であった故人の写真がライトアップされ、ブランド品を取り扱うように並べられていた。
色眼鏡屋には、個人的に色眼鏡を発注する以外にも、既製品と言っては失礼な話だが、世界で活躍した有名人の色眼鏡が売られている。
ブランド品の様に並ぶ写真は、その人たちの色眼鏡だ。
サングラスを選ぶように、この人達の色眼鏡を買う人がいるのだろうか?
棚を端から目で追ってみる。
世界にその名をとどろかせた芸術家や、有名アーティストや俳優、誰もが知るビックネームが目を引くが、その他にも、画家や写真家、冒険家に学者、投資家といった、その分野でしか名が知られていないであろう人の名前も多数売り出されていた。
脳に関する権利は、3親等まで認められている。だからなのだろう。
特殊な能力を持つ者は、死んだ後もこうやって、お金儲けのために切り売りされて、商品棚に並んでしまう。
すごい時代になったもんだ・・。つくづくそう思った。
「いらっしゃいませ、何かお探しでございますか?」
高級感が匂い立つ店内に相応しい上品なスーツ姿の男性店員が、僕の前にやってきてそう声を掛けた。
ポロシャツにゆとりのあるジーンズにスニーカー。
軽装で来た事を少し後悔した。
「あの、身内の眼鏡を作るとしたらどんな感じですかね?」
こんな曖昧なことしか言えなかった。
2か月間、たっぷり考えてここに来ているのに、いざとなると琴子の色眼鏡を作ることを躊躇している自分がいた。
「それでは、お客様。よろしければ詳しい説明を聞いてみませんか?それから作るか、作らないか、お考えになってみてはいかがでしょうか?」
「はぁ・・そうですね。」
僕の声はか細い。男性店員は僕を安心させるように頷くと、別室に案内した。
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