もしもし、お隣さん

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もしもし、お隣さん

 風花(ふうか)は、少し前から声に悩まされていた。  マンションの隣室から聞こえてくる男性の声に。  はじめは、風花の生活音に対するお隣からの苦情かと思った。仕事から帰ると疲れ果てていて、缶チューハイ片手によく愚痴をこぼしているから、それがうるさかったのかもしれないと。  でも、これまで風花自身は両隣のどちらの生活音も感じたことはなかったから、壁はそれなりに厚いはずだ。  それに、聞こえてくる声は判然とせず、その上、響きが日本語ではなかったのだ。  ドイツ語のような、ラテン語のような、独特の硬さを感じる言語に聞こえた。  大学で第二外国語はフランス語を選択していた身としては、はっきり聞き取れてもお手上げだった。……検定は三級までしか持っていないから、たとえフランス語で話しかけられているのだとしても、理解できたとは思えないけれど。    そんなわけで、お隣から声が聞こえてくるなあとは思いつつも、どうにもできないまま一週間近くが経過したある日。
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