もしもし、お隣さん

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 そんなことを考えていたからだろうか。  風花は、ベッドを据えつけている壁の足元のほうが、突然光りだす夢を見た。  大きな、長方形に光っている。まるで、ドアみたいだ――そう思ったとき、本当にそこはガチャリと音を立てて開いた。 「フウカ。遅くなって、すまなかった」  突然出現したドアの向こうから現れたのは、すらりとした男性だった。彫りの深い、ひと目で外国人とわかる男性。整った顔に、銀縁の眼鏡がよく似合っている。  その姿は、声と話し方から風花が勝手に想像していたダニエルの姿の通りだった。 「……ダニエル?」 「そうだ。風邪と聞いて、急いで駆けつけた。薬と食材はすぐに確保できたのだが、こちらに来るための魔術に手こずってしまって……まだ調整中ゆえ、壁に穴を空けるという暴挙を許してほしい」  焦った様子でダニエルはまくしたて、言い終わると眼鏡を片手でクイッと上げた。頭の中で、何となく想像していた仕草だ。それを実際に見ることができて、風花は嬉しくなった。 「ううん、いいよ。……ありがとう」  あわててやって来てくれたことが、とにかく嬉しい。壁越しに会話をするのがやっとだと思っていたダニエルが今、目の前にいるということも。 「食べやすいものを用意してきた。味の保証はできないが……何か、食器はあるか?」  本当にあわてて来てくれたのだろう。ダニエルは鍋ごと持ってきていた。中身はお粥だろうか。さすがに手づかみでは食べられない。 「あの、あっちにスプーンとかあるから。あと、冷蔵庫……四角い箱の扉を開けて、お水を取ってきてもらっていい?」 「わかった」  風花がよろよろと指さして頼むと、ダニエルは無駄のない動きでキッチンスペースに向かった。そこで少し悩んでから汁椀とレンゲとミネラルウォーターのペットボトルを持って戻ってきた。
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