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『もしもし、お隣さん。聞こえるだろうか』
そうして疲れ果てて帰り着き、玄関を開けたちょうどそのときあの声が聞こえて、風花は急いで靴を脱ぎ捨てて壁に走り寄った。
「聞こえてます! あ、あの、こんばんは」
『こんばんは』
壁の向こうから聞こえてきたのは、理知的なあの声だ。
上品で紳士的な話し方を聞いて、あわてていた気持ちが少し落ち着いた。聞きたいことがたくさんあったのだ。でも、落ち着いたおかげでそれをぶちまけずに済んだ。
「あの、お隣さんはどこにいるんでしょうか……?」
悩んだ結果、風花はひとまずそう口にした。一番聞きたいことだし、おそらく一番大事なことだ。
『そうか。まだ、細かな説明をしていなかったな。隣と言っても、物理的に隣にいるわけではなく、位相を合わせ、交信できるようにしているとでも言うべきなのか』
「……つまり、お隣さんは違う世界の人ということですか?」
『そういうことだ。お隣さんが理解力のある方で助かった。私は魔術で別の世界へ行くことができないか研究していて、今はその前段階というわけだ』
「はあ……」
正直、話の半分もわかっていなかったけれど、風花は何とか相槌を打ちながらお隣さんの話を聞いた。
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