もしもし、お隣さん

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『もしもし、フウカ。聞こえるだろうか』 「聞こえるよ、ダニエル。今日もお疲れ様」 『お疲れ様……? フウカの世界では、他者の疲労をねぎらう言葉があるのだな』 「そうだね。でも、今はそんなに深い意味はなくて、挨拶みたいなものかな」    そんな、言語や文化の違いを感じる会話をしたり。 「それでね、そのあと課長が……」 『その課長という者は、課を管理する立場としての能力を有していないように思えるのだが』 「そう! 有してないの!」 『無能な上、癇癪持ちの下で働くのは大変だな』 「まったくだよー」  仕事の愚痴を聞いてもらって、ダニエルの論理的な酷評を聞いてすっきりしたり。 『今日は竜の渡りを見たんだ! 砂竜の群れだったから派手さには欠けるが、やはり美しかった』 「竜? 竜の渡りって何?」 『そちらの世界には、竜はいないのか。渡り鳥が季節に合わせて移動するように、世界から世界へ移動する竜もいるんだ』 「じゃあ、私の世界にもいつか来るのかな。見てみたいなあ」 『ああ、見せてやりたい』  ダニエルの世界の不思議な生き物の話をしたり。  最初こそ、「異世界って何?」とか「魔術なんてあるの?」なんてことを考えていた風花だったけれど、日々壁越しにダニエルと交流していくうちにそんなことは気にならなくなっていた。  家に帰ってから誰かと、ダニエルと話をできるのが楽しい。  知性を感じさせる穏やかな声を聞くのが心地良い。  そんなふうに思って、気がつくと一日の終わりの癒やしになっていた。
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