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しかしながら、生まれつき病弱で口数も少ない。若い頃は菊池屋の跡取りを産むことを大いに期待されていたが、長女の絹を産んだ以降は流産が続き、または生まれた男子は三歳を迎えることもなく、幼くして他界していく。皆、流行り病。疱瘡が原因だった。
自らの役目を果たせないお清は、多左衛門から酷く叱責される。或る日を境にして、虚無感に心が支配されたように、毎日床の中で天井ばかりを見上げるばかり。まるで廃人の様にすっかり変わり果ててしまった。そんなお清が、一人娘の絹を気にかける余裕など無い。全て乳母任せになっていた。
菊池屋は、鹿宮郷では裕福な商家の一つに数えられ、食うもの着るものに困る暮らしでは無い。が、絹は自分の両親に酷く幻滅していた。多左衛門やお清など父母ではない。きっと自分には江戸に偉い立派な別の両親が健在しているのだ、と思い込んでしまう。仕方無いとも云えた。
絹は絹市への近道になる狭い路地を早足で歩きながら、いつもの口癖を呟いた。
「江戸へ。江戸へ行きてえ」
願いが叶うように何度も、何度も。
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