14人が本棚に入れています
本棚に追加
「山村の女どもは畑の雑草を引き抜くが如き、何の後ろめたさもなく我が子を返す。畜生にも劣る鬼のような女だ」
と罵り説教を垂れてくるが、実際は違った。
赤子を殺さなくてはならない。止むに止まれぬ事情があるのだ。村にとって、女も大事な働き手。赤子の育児にばかり手を煩わせては明日も食っていくことさえ難しい。 産まれてくる者よりも、今を生きる者が優先されるのだ。
ぬぬぬっ、老婆は唸る。
腹から厳しい声を絞り出した。
「お鶴。おめえはまだ若え。これからまた赤を産めばええ」
これが子返しを余儀なくされた女への、老婆の精一杯の慰め。過去に何度同じ言葉を口にしたのか、もう覚えていない。
一方のお鶴は涙をさめざめと流し、泣きじゃくりながら、
「《オニメ様》に……《オニメ様》にお願いしてえ」
《オニメ》。
その奇妙なる言葉を聞いて、老婆はハッと息を飲んだ。小さな眼を見開く。
お鶴は構わず続けた。
「鹿宮から、病に罹った赤っこを連れたお人がいる、と聞いたべ」
「うなっ? 誰がそんないらざる事を?」
「ならば、この赤っこを《カエゴ》にだす……《オニメ様》に許して貰いてえ!」
「《カエゴ》けえ? ならん。そいつはならんぞ! お鶴」
「婆様!」
最初のコメントを投稿しよう!