第一話 嵐の夜

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 拒絶する老婆に、それでも強く詰め寄るお鶴。両者の迫力に粗末な造りの産屋は震える。やがて、何事も無かったかのように静まり返った。  不意に赤子の泣き声が聞こえた。  産まれて間もない赤子は、名前も付けられず、母親にも抱かれないままに儚い生命を絶たれようとしている。だが、己の運命さえも知らない赤子はただ懸命に泣くばかりだ。  寂しげに、呟くように、声を出したのは老婆だった。 「お鶴よ。《カエゴ》に出したらば……もう二度と抱くことはできんぞ」  ジジッ……。  その時、蝋燭の灯りが不穏に揺らめいた。 「《カエゴ》に出したらば……おめえは決して名乗ることもできんぞ。お鶴」 「婆様や! そいつはならねえ。お鶴だけ甘くできねえよ!」  今まで傍観していた産婆が思わず抗議の声を上げた。されども、老婆はものともしない。 「おめえは、黙ったけえ!」  逆に、産婆を鋭く一喝した。  両手をついて、お鶴は必死に懇願した。 「ワシはそれでも構わん。構わん。ワシの赤っこさえ生きてくれさえすりゃ」  強い目で何度も何度も頷く。  どっこいせ、と老婆は杖を手に取るや、腰を上げた。フラフラと赤子に近づく。皺くちゃな手で、産まれたばかりの赤子の頭を優しく撫でた。 「お鶴の赤は、もじっけえなあ。もじっけえ」  まるで孫を前にする様に目を細める。老婆は非情になりきれなかった。     
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