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第一話 嵐の夜
鹿宮の子は、ようねんねする。
ここがおめえのふるさとな。
鹿宮の子は、ようねんねする。
まなこをとじて、ねんねする。
山はならねえ、オニメにあうぞ。
口をあけるな、のまされる……。
唄の名は、鹿宮郷の子守唄。
だが、鹿宮郷でこの唄を口ずさむ者はめったにいない。
「赤っこを、赤っこをおろぬかねえで!」
若い女の悲鳴が、聞こえる。
奥深い山村の外れにある、半ば朽ち果てた産屋から聞こえてくる。産屋の外は闇夜が果てしなく広がり、酷い雨が降り続く。嵐だった。
「ワシの赤っこ! 赤っこ!」
狭い産屋の中で狂気のごとく、若い女は叫ぶ。叫び続ける。
若い女に向かい合うように座るは、中年の女。その太い腕の中に、まだ産まれて間もない赤子を抱いていた。産婆だった。
されども、なぜか産婆は産まれて間もない赤子の口を開かせ、無理やり藁の束を押し込めんとしている。口の中を藁で満たし、更には赤子を仰向けに寝かしつけ、その小さな喉を自分の脚で踏んづけるつもり。窒息死させようとしていた。
――子返し。
と云われる非業なる行いだった。
「やめて! やめで! そいつはワシの赤っこ!」
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