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 ずっと雨が降っている町。  色とりどりの傘。  水たまりは一向に青空を映さない。 「私、今日出ていくよ」  黄色い雨合羽を着た小さな子たちのはしゃぎ声が脇を通り過ぎていく。  駅前には沢山の人たちが行き来している。 「そう」 「たぶんもう帰ってこないから」 「……」  私はどんな言葉をかけていいのかわからず口を閉ざした。  十亀(とき)は話をしなくなった私の方を向いて、にやりと笑った。 「あなたも早くこの町を出たほうがいいよ」 「考えておくわ」  十亀は笑顔のまま前を向いて片手を振り改札をくぐった。  十亀は言った通りにこの町に二度と足を踏み入れなかった。
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