第2話 青い薔薇

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「町子ちゃん」  そう言って、フォーラは町子の背を押した。先程から輝の顔もローズの顔も見ずにもじもじとしていた。その背中を押して、フォーラはこう耳打ちした。 「勇気を出して。輝の気持ちもおなじはずよ」  そう言われ、町子は輝の前に出た。そして、床に目を落とすと、小さな声でこう言った。 「輝、ごめん」  町子のその態度に、輝は苦笑いをした。  町子は何も悪いことをしていない。むしろ、勝手気ままな大人たちに振り回され、使命感を負わされている分、輝より不自由だった。そんな町子の肩に手を置き、輝はその瞳を覗き込んだ。いまだに床に落とされたその瞳は、輝を拒んでいるように見えた。それを悟ったとき、輝の気持ちの中に、町子を助けたいという意識が出てくるようになった。 「森高、謝らなきゃならないのは俺のほうだ。俺は、自分が戻すものだっていうことが嫌だった。なのに嫌だって周りに言わなかった。そのせいで、周りは誤解したまま俺を戻すものとして扱うようになった。日本にいられなくなったのもそのせいだ。だけど、それ全部周りのせいにしていたんだよ。他人の敷いたレールの上を歩くのが嫌だって言いながら、そのレールの上を歩いていた。そんな生き方を選んだのは自分自身なのに、あたかも周りがそうさせたかのように、周りを責めて、森高まで傷つけていた。今の俺は、戻すものだっていいって思えてきたよ。それも俺の生き方の一つなら、いったんそれを受け入れてさ、その中で自分がやりたいことをやればいいんだ。森高だって、そうだろ。お前にもやりたいことがあるんだろ」
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