第3話 粉挽き小屋

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 イタリアはナポリに着くまでの道中、飛行機の中でも車の中でも、セインとクチャナは丁寧に、勉強を教えてくれた。輝と町子はもともと成績が悪いほうではなかったので、すぐに飲み込むことができた。セインは、東西南北あらゆる場所から見た世界の歴史を細かく知っていたので、教師に教わるよりも詳しく、そして楽しく教わることができた。クチャナはもともと数学が発達していたインカ帝国の出身だ。インカ帝国とはいっても、彼女は自分の愛した国をそう呼ぶと常に直せと言って怒った。その呼び方は後世になって、占領した国がつけた呼称であって、本当の名前ではなかったからだ。クチャナは、ペルーやボリビア、アルゼンチンなどを中心として十六世紀まで栄えていたその国の名前を、タワンティン・スーユと呼んだ。その国は、文字こそないものの、数学の発達という意味では群を抜いていた。彼女が教える数学は分かりやすく、楽しいものだった。  ナポリに着くと、その日はきれいに晴れて、空には雲一つなかった。石の町という部分ではロンドンと変わらないが、ナポリはずいぶんと垢抜けた街に見えた。  この町の公共交通機関を乗り継いで、四人はナポリの郊外へと足を運んだ。きれいな海が広がるナポリ市外から離れて、草原のような麦畑が広がる郊外に着くと、そこにいくつかの粉挽き小屋が見えてきた。
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