第3話 粉挽き小屋

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 そこを少し過ぎた場所でバスが止まったので、輝たちはセインやクチャナの案内でバスを降りて少し歩いた。そこは、周りにオリーブの木が点在する以外は麦畑だけで、何もないように見えた。 「何もないんだな。だけど、つまらない場所じゃないような気がする」  輝かそう言ってあたりを見渡すと、クチャナがこう返した。 「ここには豊かな実りがある。何もないどころか、何もかもがある。豊かな土地、豊かな実り、それ以上何が必要ある?」  クチャナはやせた土地に住んでいる人間だ。土の肥えた温暖な日本に暮らしている輝たちとは価値観が違っていた。だが、輝や町子はそれがいけないことだとは思わなかったし、また、嫌なことだとも思わなかった。  少し歩くと、目の前に小さな店が見えてきた。看板にはパンの絵が描かれていた。パン屋なのだろうか。セインとクチャナは、ここで腹ごしらえをしようと言って、店の中に入っていった。  すると、店内にはいい香りが漂っていて、いろんな種類のパンが店内のところどころに並んでいた。レジには誰もいなかった。少し不用心だと思いながらも、輝たちはランチ用のパンを選び始めた。
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