第3話 粉挽き小屋

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 マルコの話はこうだった。  マルコは、粉ひき小屋のおじいさんの一人娘である、ある女性に恋をした。おじいさんの娘にしてはずいぶんと若いその女性の名前は、ルフィナ。流れるような金の髪は背中まであるストレートヘアで、ひどく美しい女性だった。少なくともひとめぼれをしたマルコからすれば美しくて聡明だった。そのルフィナが若いのは、まぎれもなく彼女がシリンだったからだ。シリンは、子供を産んでその能力をその子供に移さない限りは不老。だから、おじいさんが若いころに母親が産んで、年ごろまで育ったルフィナはまだ若いままだったのだ。だが、それを周りに知られるわけにはいかないから、おじいさんはルフィナを都会に働きにも出さなかったし、めったに遊びにも行かせなかった。マルコは、ルフィナと付き合っているうちにシリンのことも聞いたし、彼女の置かれた状況も理解してきたつもりだった。 そのうち、マルコはルフィナに告白をした。愛している、と、一言。すると彼女はたいそう喜んだ。二人はそうして相思相愛になった。しかし、ある時をさかいに、マルコはルフィナと会えなくなってしまった。 それは、一人の青年がここにやってきて住み着いてからだった。彼はアントニオという名で、町から、父親や妹を連れてやってきた。彼はすぐにこの土地になじんでいった。その頃に、マルコのパン屋にはよくアントニオの妹が来るようになった。彼女は日に何度も来てはパンも買わずに帰り、そのうちマルコに色目を使うようになってきた。パンを買わないのなら来ないでくれといっても聞かずに毎日やってきた。 ちょうどその時期に、マルコはルフィナに会いに行っても会えなくなってしまったのだ。彼女に会えない理由を知りたいと言っても、ルフィナの父は「お前の胸に聞け」の一点張りだった。そのうち家に近づくだけで怒鳴られるようになり、ついには、パンを作る粉さえも売ってくれなくなった。マルコは仕方なく他の家から粉を仕入れることにしたが、ルフィナの父が挽いた粉以上に良いものには出会えなかった。そして、もう一度粉だけでいいから納入してくれと頼んだら、先程のようなことになってしまったのだ。
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