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「見なさい。あれでも君はルフィナの父親を撃てるのか?」
アントニオが自分の目の前に目をやると、そこにいたバルトロは地面に転がっていて、そこにマルコが覆いかぶさっていた。銃弾を引き受けてもバルトロを守ろうとしていたのだ。そして、そのさらに手前には両手を広げて父親を庇い、涙を流すルフィナの姿があった。
アントニオは、チッと舌打ちをした。
「とんだ茶番だな。ばかばかしい。そのきれいごとがいつまでも通じるとは思うなよ」
そう吐き捨てて、アントニオは部下のボディーガードを全てたたき起こして、帰っていった。セインとクチャナは彼らを殺してはいなかった。槍の柄を使って気絶させただけだったのだ。
五人が去っていくと、一時緊張していた空気がほぐれてきた。しかし今ここには気難しく頑固なバルトロがいる。その老人を見て、町子や輝は体に緊張が走るのを覚えた。しかし、セインやクチャナを見ると、二人で何かを話し合っているのが分かった。あの老人はどうでもいいのだろうか? そして、ルフィナとマルコを見ると、二人はバルトロを助け起こしている最中だった。
「お前たちの手は借りん」
手を差し伸べたマルコとルフィナの手を振り払い、バルトロは自分で地面に立った。
「ひとをじじい扱いするな」
すると、バルトロは一息ついてその場にいた人間たちをかき分けてパン屋に入っていった。
「こんなまずいパンの味の違いも分からんようじゃ、お前たちもまだまだじゃな」
セインやクチャナに、バルトロはそう言った。二人は、面目ない、と一言返して互いに笑いあった。
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