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しばらくして、さっきの女の部屋から電話が鳴った。
「はい」
「アイスのウーロン茶一つお願いします」
「かしこまりました」
穏やかで静かな声だったが、やはりどことなく疲れている感じがした。
ウーロン茶を持っていくと、俺の知らない曲が流れていた。
「アイスウーロンです」
ウーロン茶を机に置くと、女は力なく笑い、礼を一つした。
部屋を出てドアを閉めると、すぐに女の歌声がかすかではあるが聞こえてくる。
別に下手ってわけではなかった。
今度は顔がしっかりと見えた。
キレイというよりはカワイイという感じで、力なく笑うその顔は、なんとなく素の笑顔な気がした。
とまぁ、一人の客にこんな入れ込んだところで何があるわけでもないし、
もう出会うこともないだろうし。
ただなんとなく、なんとなく気になった。
あの鋭い眼光が俺の瞼に焼き付いている。
しかし、このカラオケ屋ににくるってことは、仕事場もしくは自宅がこの辺かもしれない。
もしかしたらこの付近すれ違うことくらいはあるかもしれない。
で、向こうも俺のこと覚えていてーー
なんてことあるわけないよな。
アホらしい。
俺は忘れるように仕事に戻った。幸いにもその後客がコンスタントに入ってきたので、しばらく女のことを忘れていた。
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