8人が本棚に入れています
本棚に追加
そうこうしているうちに二時間の十分前になり、
俺がさっきの女に十分前だとコールを入れると、女はわかりましたと言って切った。
外は雨がまだ降っていて、客足が落ち着きまた暇になってしまった。
ほどなくして受け付けにやってきた女は、
相変わらず疲れた顔をしていたが、ここに入ってきた時よりは晴れた顔をしていた。
なんとなくほっとした。
会計処理をしていると、女の視線を頭の先でびしびしと感じた。
なんだろう。
とりあえず会計を済ませ、ありがとうございましたとレシートを渡すが、
女は受け取ったままこちらを見たままだった。
「あの、何か?」
「あ、えっと・・・」
女はぱっと下を向いて視線を泳がせると、小さく「よしっ」と言って俺を見た。
「君、高校生?」
「そう、ですけど」
「そっか・・・」
再び下を向くが、すぐにまた俺を見た。
「いいや、紙とペンある?」
「あ、はい」
女の気迫に押され言われるままに紙とペンを渡すと、女はささっと何かを書いてそれを俺に渡した。
「気が向いたら連絡ちょうだい」
俺は思わず目を丸くした。
「あ、え、あの、彼女、いるんですけど」
そうなのだ。あんなことを想像していたものの、彼女はいるのだ。
想像くらいは勝手だからいいだろうとしていたのだが、まさか、だ。
「あー・・・それでもいいよ。
君がそれでもよければ連絡、ちょうだい。ご飯おごるから」
それだけ言って女は赤い傘さし、足早に再び雨の中へと戻っていった。
「あ、ありがとうございました・・・」
受け取った紙を見ると、
女の携帯の番号とアドレスと名前が書いてあった。
「柿崎、雪」
俺は四つにたたんでポケットに入れた。
アホらしいと思ったことが、別の形で実現してしまった。
最初のコメントを投稿しよう!