焼かれる神と鈴の音

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 それは鈴の音だった。人気のないこの場所には不釣合いな妙に澄んだ鈴の音色。訝しんで音のした方に目をやると、そこには居た。  それはどう見ても少女であった。背丈はせいぜい十二歳程度で綺麗な顔立ちをしている。  身なりはというと真っ赤な色彩に木の葉のような柄があしらわれた、妙に丈の長い着物を着ている。足元は黒塗りの下駄。首からは鈴がいくつもぶら下げられており、これが先ほどの音色を出していたようだった。  まるで昔のお神楽のような奇妙な格好だったが、それ以上に青山の目を引きつけていたのは、少女の髪の毛だ。腰まである長い髪は西洋人でも見られないであろう実に見事な金色をしていた。  そんな異様な風体の少女がいつの間にか自分のすぐそばに立ち、こちらをじっと見つめていたのである。  ――赤いおべべ 金色の髪 お神楽――子供の頃から聞かされていたあるイメージが脳裏をかすめる。しかし明治の世の文明人として迷信打破、淫祀邪教の撲滅を叩き込まれてきた理性がそれを一瞬にして否定した。 「……君はどこの子だね? □□村の子かな?」  努めて平静に。自分は見かけた子供相手に他愛も無い雑談をふっかけているだけだ。平べったい石に座ったまま、青山は自身でも意識しないまま吸った煙をわざとらしいまでにフカせてみせた。  そのはったりに呼応するように、少女は仰々しい口ぶりでこう告げる。 「私はこの山に古から住む狐の神である。その石は宝永年間に私がもらったものだ。その石から尻をどけてくれ」  馬鹿馬鹿しいイメージそのままの答えに呆気にとられ、その拍子にフカしていた煙を吸い込みそのままむせた。
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