焼かれる神と鈴の音

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「ゲホッゲホ……分かった、分かった。どいてくれというならどこう。すまん」  慌てて石から腰をあげて場所をあけたが何が「分かった」のか自分でもよく分からなかった。ともかく、赤い着物の少女は彼がどいた場所にチョコンと座る。少女は石の側面を指でひょいと示した。 「私の物だという印だよ」  そこには風化しつつあったがたしかに『宝永二年奉納』と彫られてあるのが確認できた。 「お常は踊りが好きだというから。里の者達が私のために踊り場を作ってくれたんだ」  言われてみればそれは稚拙な技術でかろうじて頂上だけを平らにした事が分かる石だった。不自然に平べったく自然石ではありえなかった。その石を少女は愛しそうに撫でている。  だが一体この子は何を言っているのだろうか。自分を狐の神だと言ったかと思えば、今度は地名説話の登場人物に過ぎない「お常」であるかのように語っている。法螺にしても辻褄が合っていない。しかし青山にはこの子が冗談を言って自分をからかっているようにはどうも思えなかった。その瞳はどこまでも澄んでいる。  とりとめのない妄想――狐憑き等と呼ばれるような――に囚われているのだろうか。青山はその姿を哀れに思った。そして同時にこれこそが、この国に未だ根付いている迷信の犠牲者の姿のように思えてならなかった。
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