162人が本棚に入れています
本棚に追加
イータマエが地面に膝を着く。
オレを見上げてくる。
「わしのこと、覚えといてもらえんやろか。わし、結構、役に立つと言われとります。どうか、見知りおき、頼んます」
真剣な眼差しでオレを見た。
「あー、こいつ、無自覚なんだけどな」
ボクーがイータマエに立ち上がるよう、手を差し伸べる。
「誰が何をわかってないのにゃ?」
オーレがワァタクシに訊く。
「つまり、こいつくらい、この人もわかってないってことです」
イータマエに苦笑した。
イータマエがオレに、慈愛の目を向ける。
「教えられんからな。理とは言うものの。厄介なもんやな。そんで、あんたら、これからどうするつもりや?」
「どうするって。わたくしたちは冒険者です。お宝探して、東奔西走するだけです」
「さよか。なんか、お荷物背負っとるみたいやが。わし、あんたらが行こうとしとる街の外れで住み込みの板前しとる。困ったことができたら、いつでも来てええでな」
愛想笑いをし、すっと、顔を引き締める。
ほなら、またな。
カカンッ。
一本足の下駄を鳴らす。
戦利品のヘビ肉ともども。
空高く舞い上がる。
オレは忘れかけていた。
ここは異世界。
リアルではないと。
遠くの街に行く前に。
オレんちに一旦、帰ろう。
ワァタクシが反対したら。
たまには別行動もいい。
エメちゃんはオレと行動をともにする。
彼女はオレ同様、ギルドの一員ではない。
洞窟内で手に入れたものをネットオークションに出している。売れた分だけ入金してくれるサイトにも、サブカル好きな人向けの洞窟品を委託してある。入金していたら助かる。同じ口座振替の電気料金が引き落とせている。
……いろんな若者が夢見る異世界。
オレはリアルを引きずっている。
夢見る少年少女たち。
マジ、ごめん。
「オレ、一度、家に戻るわ」
「んじゃおれも行くにゃ」
「オーレ、わたくしたちは武器の調整をしに行きます。それからオレサンと合流しましょう。武器のメンテナンスの間、待っていてもらうことに、気が引けていたのです。ちょうど良い申し出です」
「一緒ではダメにゃ?」
「調整をしてみて。新しく違うものを買うか、吟味する時間が欲しいのです」
「それが終わったら」
終わったら。
オーレにワァタクシが微笑む。
最初のコメントを投稿しよう!