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「今大災害が起こったら、二人で逃げられるのにね」
その言葉を受けて聡美は目を丸くして顔を上げた。
「何言ってるんですか……」
――あなたは彼女とドイツに行くんでしょう?
その言葉は瞬時に自分に返ってきた。
――あなたは結婚していて子供もいるんでしょう?
「俺は聡美さんちが羨ましいよ。結婚して、子供もいて、ちゃんと将来のこととか考えてるでしょ? 俺は根無し草だもん。だから、根を張った生活できてる人見るとすごいなぁって思う」
「そんなこと言ったら私だって……! 古坂さんが羨ましいです! 自由で、自分の思った通りに生きてる感じがして。私は……抜け出せませんから」
光輝は声を出してハハッと笑った。
「聡美さんの気持ち、ものすごく嬉しいよ。でも、行かなきゃ。……隣の芝は青く見える。羨んで、羨んで生きていくわ」
「……さよなら。気をつけて」
笑顔で言い切ると、聡美はすぐに背を向け、歩きだした。
傘のない光輝は、別れた後、きっと走り出すだろう。
その姿を想像すると、胸が締めつけられた。
振り返らないと決めて、早足で家路へと向かう。
ありがとう。古坂さん。
一瞬だけ両思いになれた気がした。
ティーンエイジャーのような淡い気持ちを抱かせてくれたことに、聡美はただただ感謝した。
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