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実家が営む喫茶店で働くようになって半年を過ぎた頃、修行中の俺の姿をからかいに来た幼馴染みの亜子姉が連れてきた清香さんの第一印象は、とても儚い人、だった。がさつな性格の亜子姉の親友とは思えない、清楚な雰囲気を纏う清香さんに、本来の、俺より歳上で社会人七年目、女性としての落ち着きを感じさせてくれる、正直好みの人だった。 亜子姉に促され、カウンターに座る際の綺麗に伸びた背筋や首のライン、テーブルに置いた手、体躯の全てがぽっきり折れてしまいそうに細くて心配になったことを、それから一年経ち、少しふっくらと健康的になった清香さんをカウンターの内側から眺め思い出していた。 「清香さん。亜子姉遅いけど時間大丈夫? なんなら帰り車で送ってくから安心してよ」 「ありがとう。でも大丈夫。遅れるのは連絡くれていたし、家は駅からわりと近いのよ」 「それでもだよ」 あれから常連となってくれた清香さんは、最初こそ人見知りをしてたものの、早い段階でそれなりに心を許してくれるようになり、今ではこうして、亜子姉抜きでもそこそこ楽しく会話できるようになった。 カウンターの右奥、客側からは死角になっているところで珈琲豆の整理をしながらこっちを残念そうに見てくる親父に感謝をし、もう暫くのこの楽しい時間を過ごす。親父には、このはしゃぐ気持ちを理解されてしまっている。俺は存外わかりやすいらしい。 「こんばんはー。お腹空いたっ」 「いらっしゃい。もうフードはオーダーストップしてるけどね」 「賄いでも気にしない。清香も、それでいいよねー?」 「駄目でしょ。ご迷惑だよ」 清香さんも食べるなら迷惑なんてことないだろうがと目で語ってくる亜子姉にも、俺の心情はわかりやすく伝わってるらしい。 ……本人には、全くだけど。 別にいいさと仕舞ったフライパンを取り出す。 ただ単に普通の、憧れくらいのものなんだから。
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