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時間は止まってくれないし、これって答えを出さなきゃいけないもんでもないことだと、別段気にもしないで過ごしていく。 相変わらず憧れめいた感情を抱いたまま、それくらいのものだと、変わらず店に足を運んでくれる清香さんとも時々顔を合わせる。 それだけだ。それくらいのものだ。 それくらいのものだった―― とある土曜日、午後四時のこと。 店の奥のボックス席には三人の客がかしましくしている。亜子姉と清香さんともうひとり、二人の大学時代の友達だ。お互い意味もなく笑い合い話に花を咲かせていた。本日はプチ同窓会らしい。 何処か別のところでランチをするつもりだったのが、二人の友達だという人の体調を慮り、偶然今の住まいの近くだったウチでお茶をすることになったという。注文されたドリンクを運んだとき、その慮った体調とやらの正体を、別に興味はなかったけど俺も知る。 「――今ね、やっと安定期に入ったところ」 テーブルの中央には、母子手帳と記されたものが置かれていた。その横には、何か黒く一面を塗られたような薄い小さな紙きれが丸まっていて――エコー写真だと、その黒の中にあった小さな白い部分を、友達は愛おしそうに指でなぞっていた。 「つわりも、最近落ち着いてきたの」 だからもっと出歩けたんだけどごめんね。と、まだ目立たないお腹に手をやりながら。 「無理はせずにね。また動けるとき付き合うから」 「わたしも」 幸せな友人同士の報告。 けれど、少しばかり顔の様子がおかしい亜子姉がいて……きっと二人には知られない程度のそれに、幼馴染みである俺は気づく。尤も、会話の内容で、亜子姉がそうなってないかと容易に考えられたからではあるけど。 亜子姉は、清香さんのことを心配していた。 友達の妊娠を喜び、同時に清香さんのことも気にした亜子姉。対する清香さんはそれに気づかずに、悲しいことなど何もない笑みで祝福だけを口にしていた。
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