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「セッパク」「ケトンタイ」「テンテキ」「ゼッタイアンセイ」「カミサマニズットオネガイ」――店には他の客がいなくて静かだった。親父も席を外してるものだから、カウンターの内側にいても彼女達の会話を漏れ聞いてしまう。知らない単語が多すぎて、そのうち理解出来るものまでも異国の言語みたいに聞こえてきた。 それはそれでいい。あれは俺にとって、世間話でしかないのだ。客の話は興味の薄いBGM程度に留めておくのがマナーで。亜子姉と清香さんの友達とはいえ、話の主体がその人であるならそんなもので聞き耳を立ててしまいそうにもならない。 ただ……亜子姉があんなに、秘密裏に心配するもんだから……。 俺もずっと気にしてしまった。清香さんのことを。 女子のおしゃべりというのは、何故あんなにも延々続くのだろうか。途中ドリンクの追加とケーキの注文があり、三時間半口を動かし続け、友達の旦那が車で迎えに来たことでようやく解散となった。 「あっ。あの子忘れてってる」 友達を送り出したあと、残りの二人は留まっていた。亜子姉が帰っていった友達の忘れ物に気づき、席を立つ。 「ちょっと追いかけてくるっ。待ってて。清香足遅いからひとりのほうが早い」 店の扉を勢いよく開け放ち、亜子姉は外へと飛び出していった。すぐ戻ってくるかと眺めてたけど暫くしても姿は認められず、放たれたままの扉を閉めに向かう。そうして、まるでついでみたいに、店にひとり残された清香さんの元へと足を進めた。 「清香さん、時間平気?」 「っ、うん。大丈夫。居座っちゃってごめんなさい」 「満席ならお断りするかもだけどね。生憎なもんで。――これ、良かったら食べてよ」 「えっ」 「北海道土産もらって。生チョコ」 静かにテーブルに置いた一粒に、カフェオレもサービスした。 ――なんとなく、背中のラインが緊張してたように見えたんだ。 亜子姉に感化されただけだったら失礼な話かもしれないけど。 余計なことだったと後悔したのは、清香さんからの言葉のあとだった。 「慰めて、くれてるの?」 「っ」 「そっか。幸大君は知ってるのよね。――子どものこと」
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