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知られていたなんて、思いもしなかった。 「亜子も、今日は落ち着きないし。……私って、そんな僻んでるように見えたかな」 「そんなことないっ! っ、ただ……って違うっ、そんなことより黙っててすみません。っぁ、そんなことなんて言っていいことじゃなくてっ」 清香さんは違った。僻んでるようにも、悲しそうにも見えなかった。ちゃんと友達の身に宿った命を喜んでいた。 俺や亜子姉のことを簡単に見透かす聡く賢い人だとしても、嘘を平気でつく人じゃない。知り合って一年と少しの時間でそれを確信するのには充分だった。ただの俺の浅はかな推測なんかじゃ……。 伝えたいのに、自分の持つ語彙の少なさに黙ってしまう。 そんな俺に、清香さんは何故かごめんねと眉尻を下げて謝ってきて。なんでだよ。 俺ただただ……黙り込んでしまうだけだった。 「幸大くんは、悪くないんだよ」 いつもより少し砕けた優しい声色と口調は、まるで幼い子へのあやしみたいだった。 「あの子ね、妊娠のこと私に報告するの、迷ってたみたい。私に起こったことに配慮することと、何も言わないことは違うんじゃないか、でも私は傷つくんだろうか、どうしようか、どうしたらいいか、何が正解なのか……毎日辛くて不安ばかりだった体調の中、考えてくれてたの」 本当に嬉しかったのよ、と綻ぶ。 「ちゃんと病院にも通って、大切にしてた。検診代が勿体ないから敢えて病院行くの遅らせてるなんて恐ろしいこと言う会社の後輩なんかと違って。大切に大切に」 「自分に出来ることは全部やって、それでも不安で、毎日神様にも祈ってたって。……私も、そうしてた」 「……私は、それでは救われなかったけど」 「まだまだ心配はあるに決まってるけど、今ああして元気で良かったと思う。私みたいになることなんて欠片も望んでない。絶対に。……でもね、ひとつだけ、冷めた感情で聞いてしまった私が、いたの」 「神様に祈る姿を想像して、白ける私がいた」
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