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「神様なんかに祈るなんてって……。私、信じてないの。……平等であるべきなのかなんなのか知らない。全ての人に幸福を与えるものでもないかもしれない。けど理不尽に強制的に終了させられてしまう命や、報われて欲しい人には与えられないなんて、そんな神様なら、別にいなくてもいいやって。……自分のことがなければこんなこと考えなかったなんて最低だけどね。だから、私は……」
なんて抑揚なく語るんだろう。
それは努めて冷静でいようとしてたからだと感じる。抑えてるに違いない感情を閉じ込めるためだろう、膝の上に置いた手を、清香さんはスカートごときつく握っていて。普段から白い手の甲には、一切の血流がなくなって見えるほどに。
「……駄目だよ」
その行為が自傷に思えてしまって、思わず俺はしゃがみこみ、清香さんのこぶしの強張りを包んで解そうとした。
けど、頑なで頑なで。
きっと、自身にあったことを絡めてしまって……。どうしても切り離せない。どうしたって、何にでも関わってくる清香さんの大切なもの。いなくてもいいと言う神様を、そんなに意識してしまうのは辛いだろう。口にする度、存在は清香さんの中で具現化し、余計に苦しむ。どこかでふいにその存在を肯定もしてしまう。言ってることの矛盾も増していった。恨んだり罵ったりもしたかもしれない。泣いて泣いて、自分とは違う世界に置きたくても無理で。世界の全てを、棄てたくなったのかもしれない。
仕方ない、それほどのことがあった。今の俺でさえそう思うんだから、当事者は計り知れない。
「ここまで立ち直れていないことに気づいて驚いた。毎日ちゃんと、私はそれなりに、頑張ってこれてたと、思ってたのに……」
無知で無力でガキな俺は、行為ひとつを諌めることしか出来なかった。
「亜子には、こんな私知られたくない……」
せめて、泣いてくれたら抱きしめられたのに。
出来なかったから、もうすぐ戻ってくるかもしれない亜子姉から遠ざけようと、清香さんの手を引いた。立ち上がらせ、まるでかくれんぼみたいに、ふたりしてカウンターの内側に滑り込んだ。
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