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……これではまるで、生徒の悪だくみを知りながら、あえてそれに荷担している共犯者みたいだ。
まったくどうかしている、とひとつ頭を打ち振って自らの愚かしい思考を振り払うと、気持ちを切り替えつつ、彼が待つ生徒指導室へと向かう階段を昇る。
「──……萱島?」
そうして、軋みを上げる老朽化著しい横開きのドアを開けると、ひとつしかない奥の窓の手前、こちらに背を向けて佇む制服の後ろすがたが見えた。
呼びかけにも微動だにしない背中に、いったい何をそんなに、と興味を惹かれて隣に並ぶと、一心に空を仰いでいた瞳がふと、何かを認めたようにすっと眇められる。
「──来る」
「……え?」
そのつぶやきが耳に届くか届かないかの刹那、遠雷のとどろきと同時に落ちてきた大粒の雨が、またたく間に視界を真っ白に染めた。
晴天から一転、突然の予期せぬ驟雨に、校庭で部活動に勤しんでいた生徒たちからは怒号にも似たくぐもった悲鳴が上がる。けれど、そんな声すら聞こえていないのか、魅入られたように窓の外の景色を眺め続ける千景に、貫井は衝動的に彼の腕を掴むと、半ば力ずくでその場からもぎ離していた。
「……、あれ、先生? いつの間に──」
「──何故分かった?」
「……え?」
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