白夏の檻

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 そこまで言っていったん言葉を切ると、左手にはめている銀色の腕時計に何気なく触れる。彼の長い指のすき間を縫って届く白い照り返しに目を眇めていると、やがて貫井が静かにあとを継いだ。 「──柚原(ゆずはら)先生は諭旨免職処分になった」  その語尾に、常とは違う揺らぎを感じて顔を上げると、そこに貫井の瞳があった。自分をまっすぐに捉えて離さない眼差しに浮かぶ感情の正体に気付いたとたん、千景はこみ上げてくる笑みを抑えられなかった。  ──嫉妬だ。  いつも、めったに顔色も変えないこの男が、自分に心を動かされている。  それは、暗い愉悦だった。 「……ばかな女」  声に出してつぶやくと、ふいに柚原の白い肌の感触が鮮明によみがえる。けれど、どんなに記憶を探ってみても、あのとき、自分のしたに組み敷いた彼女の顔をもうはっきりと思い出すことはできなかった。それくらい、千景にとって本来、柚原という若い女性教師はどうでもいい存在だった。    そう、このひとが──このひとさえいなければ。  そのひと言が思いがけなかったのか、貫井が驚いたように目を瞠る。そんな常にない彼の様子を楽しみながら、千景はさらに言葉を紡いだ。 「誘ったのは俺の方なのに、俺は謹慎一週間で、先生は免職ですか。気持ちいい思いをしたのはお互いさまなのに、世のなか不公平ですよね。……ああ、でもそうか。法律が保護してくれるんだ。悪いのはすべて大人で、未成年の俺には罪はないって」
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