白夏の檻

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「……っ、……ふ、……」  最初はごく軽く触れるだけだったものから、次第に深くなっていく口付けに、身体中の力が抜けていく。それでも、貫井の唇は千景を解放しようとはしなかった。  ついには膝が折れ、彼の白衣に包まれて床のうえにふたり、折り重なるようにして倒れ込む。その衝撃で、空中に漂っていた小さな埃が舞い上がり、西陽を映してきらきらときらめいた。  ──その先に、貫井を見つけた。  ようやく解けたキスに息を切らしながら、まっすぐに自分を見下ろす彼の瞳を見つめ返す。そこにどんな感情がひそんでいるのかを、どうしても確かめたくて。  そんな千景の視線を捕えたまま、貫井の少し掠れた声が告げた。 「……嫌だったら、大声で叫べばいい。俺を突き飛ばして逃げてもいい。決めるのはおまえだ」  そこまで言うと、そっと千景の耳許に、彼以外には誰にも聞き取ることができないくらいのごく小さなつぶやきを落とした。 「──……好きだ」 「……先生……」  訊きたいことは山ほどあった。どうして、だって柚原先生は、いったいいつから、そもそも何で俺なの──? けれど、そう告げて、口許にかすかな笑みを浮かべた貫井にそれ以上何も言えなくなる。    ──だって今、そこにあるのは、不器用だけれどまぎれもない、貫井の千景への偽らざる想いだったから。
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