白夏の檻

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 ゆっくりと心がやわらかくなる。先程まで全身に凝っていたつめたいくらいの絶望感が、静かに溶け出していく。そして、この身体を温かく流れる血液に混ざって浸透していく。  貫井が触れた、その場所から。 「この気持ちを持て余して、柚原先生と付き合っていたこともあった。……でも、だめだった。俺は──」  苦しげに眉をひそめて告解する貫井の唇に、指で触れて途中で遮る。  ──もう、いいと思った。  すべては、自分のなかで犯した小さな過ち。貫井を想うがゆえの、千景の罪。  だから、そう応える代わりに、目の前の愛おしい男に微笑みながら想いを伝える。 「──……こんなところ見つかったら、先生も免職処分になりますよ」  とたんに、貫井の表情があっけなく崩れた。そのまま、おかしそうに笑みをかたどった唇が、ふたたびゆっくりと降りてくる。彼の白衣の裾が、半袖から出ている腕に触れるくすぐったさを感じつつ、導かれるように千景もそっと目を閉じた。  唇が触れ合う瞬間、ささやきが耳に届く。 「……構わないよ、おまえとだったら」  語尾が、ふたりの吐息のあいだで溶けて消えた。
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