白夏の檻

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白夏の檻

「──一週間の自宅謹慎だそうだ」  そう告げながら、担任の貫井(ぬくい)が千景(ちかげ)の向かい側に座る。パイプ製の椅子が、彼が着ている白衣のしたで小さく軋んだ音を立てた。 「……そうですか」  化学担当である貫井のトレードマークとも言える白衣が、狭い生徒指導室の一か所しかない窓から差し込む陽光を映してかすかに色を帯びている。その肩の辺りで埃がきらきらと舞っているのを見つめて、千景はそれだけ応えた。  遠くから、部活動に励む後輩たちのざわめきが聞こえてくる。つい二か月前までは、自分もあの場所にいたのだと、そんなことをぼんやりと思った。  あと一週間で更衣になるというのに、西陽はまだ夏の気配を色濃く残している。この部屋の温度が廊下のそれより高く感じるのも、決して気のせいではないのだろう。  ……このひとは、平気なのだろうか。  そう思って、目の前の白衣姿の教師を見る。しかし、彼はこの暑さに対する不快感すら見せようとしない。そのことが、千景のなかに小さな苛立ちを生む。  ──初めて貫井を見たとき、白衣というのは涼しそうなものだと勝手なイメージを抱いた。それが、身に付けている彼自身がまとう気色のせいだと分かったのは、そのあとしばらくしてからのことだった。  貫井が、ほとんど感情を表に出さないからだということに気付いたのは。 「……それから、」
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