灯火

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「そちらのお嬢さんは、 ひょっとしてスケート選手の方では…」 「え、 はい」 急に目を向けられて、 私は慌てる。 こんな年配の人、 それも男性に自分が知られているとは思わなかった。 「やっぱり!家内が好きでねえ、 全日本も見てたんですよ。 あれは惜しかったですねえ」 「はい…」 去年の全日本で私はフリーの最後に転倒して二位、 あれがなければ多分優勝できていた。 あの時の母の顔は思い出したくもない。 ワールドの代表には選ばれたが、 またしても転倒が響いて八位に終わった。 ネットや週刊誌で「本番に弱い」と散々言われたが顔も知らない他人より実の親の冷淡な態度の方が堪える。 あの時の私は目標もなく、 言われるままにフィギュアをやっているだけだった。 それでもヒロト君は私に励ましの言葉をかけ続けてくれていた。 だから頑張って来れた。
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