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第一雨 プロローグ
ポツリ、ポツリ。
昼過ぎから降り始めた雨は、今現在……午後5時を過ぎたあたりではもう結構な大雨になっていた。この調子なら、今夜はずっと降り続けるだろうと思えるくらいに。
私は白峰結雨。吹奏楽部で打楽器を担当している中学二年生です。今日は珍しく部活の練習がないから、図書室で時間を潰していました。一人でゆっくり帰ろうと思ったのだけど………。
傘が、ない。
朝、学校に来る前に見た天気予報では晴れだったから、傘は良いやと思って持ってきていませんでした。雨が降り始めてからも、置き傘があるから安心していたのに。
その置き傘が、ないのです。
よくよく見ると、もう帰ったはずのクラスメイト、しいちゃんの傘がありました……しいちゃんの傘は私のとよく似ているから、きっと間違って持って帰ったのでしょう。
職員室に行けば傘は借りれるけれど、また返しに来るのも借りに行くのも面倒なので、私は傘をささず帰ることにしました。
下駄箱に行き、上靴から外靴に靴を履き替えます。ふと外を見ると、雨はさっきより更に勢いを増したようでした。
パラパラ、という感じの音だったのがバラバラ、という風な音に。
風邪、引いちゃうかな?
「まぁいっか別に……」
私は一人呟くと、外へと足を一歩踏み出しました。
少しずつ、少しずつ、私の体が、リュックサックが、雨に濡れていきます。ただでさえ重かったリュックサックが雨水を吸って更にじっとりと重くなりました。
私の家は、お世辞にも学校から近いとは言い難く、通学には45分ほどかかります。
だから。
途中の交差点で待ったりしたら。
すごく大変、なんです。
ピッコンピッコン。
まるで、私を通らせるものか、と主張するかのように。
今まで青い光を放っていた歩行者用信号機は、点滅しだして。
そっと、赤い光をともしました。
雨のなかで濡れる私にスポットを当てている街灯に小さく苛立ちながら。
一人佇む、金曜日の夕方。
ここの交差点は歩車分離式なので、一度止まってしまったら5、6分は足止めを食ってしまう。
「どうしよう………」
私は思わず、呟いていました。
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