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身体から何かが抜けてしまったように カウンターを立てなかった。 涙ばかり どうして なんて 聞かなくたって わかる 私、あいされてたんだわ ドアベルが鳴った。 今日は もう終わったって言わなきゃ、と 指で涙を拭く。 でも、鍵は... 「姉ちゃん」 座ったまま振り向くと、朔也がいた。 「帰ってきた。 あ、仕事あるから、明日までだけど」 朔也は、私の隣に座る。 「マンションにいなかったからさ 店かな って思って」と カウンターに ボティスさんが置いて行った 桜のお酒を手に取る。 「姉ちゃん、ごめんな。つらかったよな」 首を横に振る。また頬を濡らしながら。 「母ちゃんの 命日だな。推定だけど。 明日さ、墓参りに行こう。兄ちゃんとこも。 その後 戻るけどさ、ちょくちょく帰って来るよ」 私を覗く顔は、また少し大人になってた。 顎ヒゲなんて 生やしちゃって。 「なまいきだわ」って 言うと また泣けてくる。 「なんだよ」って、朔也が笑う。 「姉ちゃんが酒って、めずらしいね。 公園に寄って、花見して帰ろうぜ」 空いてる手の方に、私のバッグを持つ。 店の灯りを消して、キッチンから出ると 空には、ほんのり淡い 桜色の月が出てた。 ********      「桜月」 了  狐 後日譚・短編集 榊「鴉天狗」         (154ページより)公開中です。   本編は 万象 次の巻         「蟲」に 続きます。
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