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「元は、六十六もの写経を奉納するという 善き旅をしていた者であったようだが この集落の者に、わずかな路銀目当てに斬られたのであろう? それは さぞ、無念であったのう」 法華経の声が遠退いた。 「世の すべてのものに、仏性は備わる というが 怨みなどで、多くの者を切り刻んで寄せ集め このような呪物を造った者にも、造られた者にも、 そのようなものなど備わっておるものか」 仏性 法華経では、仏種というものだが すべてのものは仏陀になれる可能性が備わっている... ということだ。 真理を覚り、仏陀になる というのが 仏教の大元の目標になる。 打つことで、執着を払い、煩悩を滅し 仏性を見い出させようとしているのか? 誰に? 六部に? 異形に? それとも... 「それにのう」と 榊は続ける。 「儂らは、皆を救っておるではないか。 どうじゃ? 返りの痛みも消え失せたであろう? これに今、打ち返したからのう。 皆が畏れた異形は、このとおり無力に転がっておる。 おお、見よ。人非ず者のくせに、打たれた肌は 青黒うなっておるわ。哀れよのう」 ビュウ と、薙刀が鳴り 異形を打つ音が響く。 法華経が止んだ。
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