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がぼがぼと 水を吐き続ける彼女に付いて行く。
不思議と寒くない。
山道に入ると、空中に舞うものは
雪なのかしら? 花びらなのかしら? って
ぼんやり思う。
どこの山なのかな? とてもきれい。
道を反れて、枯れた藪に入る。
彼女が水を溢すから、迷ったりはしない。
さわさわと、枯れ草が擦れて
水が流れる音がする。
「娘」
突然、声がした。
誰? 冬の夜の山になんて...
ザッ ザッ と、草を分ける音がする。
「取り殺されるぞ」
現れたのは、白地に白金で模様が入った着物に
紺地に銀模様の袴を穿いて
頭には 二本の角がある、鬼だった。
死んだ鹿を、片手に持って
私の前まで来る。
私は、なんだか 良くわからない。
さわさわという音に
がぼがぼという 彼女の水音。
鬼まで出るなんて...
鎖骨までの黒髪の鬼は
女のひとみたいに、キレイな顔をしていた。
「死霊か。幾つか取り殺しておるな」
鬼は、鹿を持ったまま
反対の手で刀を抜いて、彼女を斬り付けると
彼女は、自分から退いたように消えた。
「中に何かある。厄介な者だ」
刀を元に戻すと
「付いて来い」って、私に言う。
鬼は、静かな声をしてる。
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