4/10
前へ
/224ページ
次へ
******** それから彼女は、毎晩 店の奥に立った。 がぼがぼと、水音をさせて 自分も 床も濡らして。 でも ここに出る限り、朔也は無事だわ。 売り上げの伝票をチェックしながら 急に 指が震えた。 こわい 今まで、平気だったのが 不思議 今は とても、彼女がこわい 早く、お店を出よう。 キッチンから、裏の鍵を閉めて カウンターの下からバッグを掴むと ギクリとする。 彼女は、お店の真ん中にいた。 動けるんだわ... また少し 彼女が近づく がぼがぼと 言葉にならない水音を立てながら どうしよう? どうしよう 凍った月と はぜた火の熱 私 生きたい 赤茶けた髪 見開いている充血した目 彼女が 水を吐きながら笑った やめて 来ないで お願い 生きたいの... また 彼女が近づくのに 動けない。 ドアは そこにあるのに
/224ページ

最初のコメントを投稿しよう!

747人が本棚に入れています
本棚に追加