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「次」と、朋樹くんは
コートのポケットから和紙を出した。
「どうすんだよ?」
「沙耶ちゃんの匂い 覚えたし、殺らねぇと。
また狙って来るぜ。霊喰いに」
朋樹くんが、また短い呪文を唱えると
水虎に絡んだ枝が解ける。
「おい、オレは 梶谷 泰河だ。
恨むなら、オレを恨めよ」と、泰河くんが
水虎に言って
片手で水虎の頭を持って ぶら下げると
朋樹くんが 手の和紙を飛ばした。
和紙は、白い鳥の形になって
水虎の開いた口に追突すると
切断された 口から下を床に落とす。
泰河くんが、落ちた口から下の身体の上に
手の頭も落とすと、それは ぐずぐずになって
黒い歪な塊になった。
「埋めて来いよ。水がないとこ。
仕上げは心経な。オレは店を清める」
朋樹くんが言うと
「おう。沙耶ちゃん、何か作っといて」と
泰河くんは、黒い塊を持って お店を出た。
「高天の原に 神留まります
皇が睦 神漏岐、神漏美の命以ちて... 」
神社の人が言うようなことを 朋樹くんが言うと
お店の中が、淡い燐光に包まれた。
彼女が溢した水も、青白い花びらも消えていく。
それが終わると、朋樹くんは 私を振り向いた。
「ツケは払ったぜ。雇うだろ?
これからは ここの飯代に、報酬から 二割 引いてくれ」
私は泣いて、バッグを抱き締めたまま
頷くしかなかった。
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