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「おっ、出た!」
ルカの声にブレーキを踏む。
左眼を左手で覆い、右眼で車内ミラーを見ると
確かに、セミロングの髪を茶色く染めた
半分透けた女が立っていた。
「お姉さん、何してんの?
なんで ここに出るの?」
ルカが話しかけてみているが、女は俯いたまま黙っている。
「お姉さんさ、たぶん
どこかで事故に合っちゃったんだと思うんだけど
その時のこと、覚えてる?」
続けて聞いているが、女は やっぱり黙ったままだ。
どうやら話す気は ないらしい。
さて。じゃあ額に触れるか。
車を降りようと、ドアに手を掛けた時に
車がバックし出した。
「あれっ?!」
とっさにサイドブレーキを引くが、車は止まらない。
「おい、泰河! オレまだ話して... 」
ルカが透けた女越しに、車の中のオレに言うが
どんなにブレーキを踏み込もうと、車はのろのろと後退りを続ける。
ドン と、車に大きく柔らかい物が当たる感覚と
オレの車からではない急ブレーキの音が響く。
「いや、ちょっ... !」
なんで止まらないんだ?!
後ろのタイヤが何かに乗り上げ
ガタンと降りた。
ミラーに映っているのは、青い顔のルカだけで
車の下を見つめている。
ようやく車が停止した。
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