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「裏の拝殿は、それを祭るためなのか?」 説教が始まる前に、朋樹が口を挟む。 「いや。昔は(やしろ)に祭っておらん神からも よく神託を賜っていたそうだ。 そのための場所だった。 だが、二度と天馬が降りることもなく 神童のような子も、天馬が去った後は 自分が唱えた祝詞を忘れてしまっていた」 その子は死後、神として祭り上げられ 表の拝殿... 本殿から、右にある鳥居を抜けた先の 竹林の道の奥 伊弉冉尊(いざなみのみこと)を祭っている小社の近くに 祠が建てられているらしい。 「巻物の続きは、子供の祝詞か?」 朋樹の質問に、おじさんは答えず 「母さん、茶を」と、台所の おばさんを呼ぶ。 おばさんが、急須と湯飲みを持って来て テーブルにサブレの皿を置き、おじさんに茶を淹れながら 「朋、あんたは天馬に会っているわね。 10歳の時よ。 泰ちゃんと、ここに戻ってきた時 泰ちゃんは白い炎に包まれて見えたのよ」 「もう 大変だったわー」と 続けて 榊と 一緒にサブレを摘まんでいる。 「架空の伝承ではないと、わかったのは その時だった」 おじさんは「まったく。お前たちは、子供の時から面倒ばかり起こす... 」と 熱い茶を 一口飲み また説教が始まりそうな雰囲気だったが 「これを飲んだら、裏の拝殿へ行く」と言っただけだったので、密かに胸を撫で下ろした。
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