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『でも、外より
暗い隅にいた方が落ち着いたから... 』
それで地下駐車場の隅か。
わからないなりに、“落ち着く”とかって感覚はあるんだな。
ちゃんと わかってたら、ああは ならんだろうけど... と、ついカエル体勢も思い出す。
「今でも文句 言ったりしたい?」
『いえ、特には... 』
「じゃあ、もう行かれた方が... 」
オレが右手を出すと、女は身を引いた。
『待って。私、どこへ行くんですか?』
女の質問に、ルカと目を合わせた。
「どこだろ?」
「さあ... まず幽世だろ、たぶん」
『なんか、いい加減じゃないですか?』
うん、まあ 言われてみれば そうだな。
「でもさぁ、ここにいたら
またお姉さん、さっきみたいに... 」
ルカが言い掛けると、女は
『やめてっ!』と短く言って首を横に振った。
『ええ。行くわ。
身体もないのに、長く居ちゃいけないみたいね。
あのままだったら きっと、私は あの闇に飲まれていたと思うし』
「あの闇?」
ルカが聞くが、女は
『あなたたちが、私の中から消したじゃない』と
答えた。
墨色の靄。それは見たことがある。
知らぬ間に身に染み入る。
オレの手からも、一度 立ち昇っていった。
ルカが額に書いた“苦”という文字になったものが
たぶん、それだ。
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