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透樹くんが、口を開き 眼を見開いて ガクガクと手足を震わせる。 背後の地面に、棒で突いたような穴が空いた。 朋樹が両手を離すと、人形(ひとがた)は炭のような 黒い灰になり、バラバラと塵になる。 「... 兄貴?」 透樹くんは 白眼を剥き、朋樹とジェイドを弾き飛ばすと 地面に転がるが、何とか無事のようだ。 起き上がろうと膝と両手をつき 呼吸を整えている。 朋樹と ジェイドが、透樹くんを また地面に座らせて、胸や手首を確認する。 「よし。文字と傷跡が消えた」 返りは 突き返せた。 幾らか陀羅尼も効いたようだが ルカが出した怨嗟の文字を、太白星の精が 人形(ひとがた)に移した。 僧侶の方に眼を移すと、慶空の薙刀が貫いた胸の中心を起点に、肩口から脇腹まで 斜めに法衣と身が裂かれていた。 肩袈裟が落ちる。 自身を貫いたままの薙刀に 僧侶は先のない腕を上げて添えた。 「名を申せ」と、慶空が問うと 薙刀に添えた僧侶の腕が、元の ぬかるみのように形を無くし、薙刀を覆い出す。 ... 慶空を、取り込もうとしているのか? 「慶空! 薙刀を離せ!」 榊が叫び、浅黄が駆け寄ろうとするが 「来るな!」と、慶空に止められる。 「ナウマク サラバダタ ギャーテイビヤク サラバ ボッケイビヤク サラバタラタ センダマカロ... 」 不動明王咒を唱える慶空の薙刀は ほとんどが 僧侶のぬかるみに取り込まれ それは、慶空の腕にも伸び始めていた。
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