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ことが終わっても野木崎は、まだ満足していないと言って匠を帰さなかった。
各々シャワーを浴び、ホテルのレストランでディナーを摂る。部屋に戻ると日付が変わる前に別々のベッドで眠りについた。
目が覚めたのはまだ日の登らない時間だった。野木崎はすでに起きていて、窓辺のソファで電子煙草をくわえながらスマートフォンを眺めている。
匠が身動きしたことに気づいて不穏なほうの笑みを見せた。
「俺、いつもあんま眠れないのにさ。五時間も寝ちゃったよ」
匠は自らも入眠剤を使わず早々に眠っていたことに気づいたが、何も言わなかった。一度失望した人間に同調したくない。
相変わらず無表情の匠に、野木崎は構わず告げる。
「次の休みも付き合えよ。俺、疲れてんだ。匠を抱きたい」
野木崎の言うことはどこまでが本当なのか、自分には判断できない。
だがまやかしだとしても、匠は情けを乞うてきた彼を突き放すことができなかった。
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