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「ロン」
匠は雀牌を返す。
「立直、一発、七対子、ドラ四」
左隣の寂れた中年の男が、溜め息を吐いて複数の万札と小銭を雀卓に放り出す。右隣のスーツの男は伸びをして、
「またか。ツイてないな、今日は」
と白々しく呟いた。
自分はついていた。皆が、自分の欲しい牌を何度も捨ててきたのだ。
匠は今日、金が欲しかった。親からの仕送り直前、金が尽きそうだったからここに来た。遊びに来たのではなく、稼ぎに来た。
スーツの男はそれを知ってあえて負けたのだ。他の二人が勝たないように、匠が一人勝ちするように打っていた。
裏芸を使える人間のようだった。自分が大負けしてこの男と関係を持つようになった半荘も、何かしら不正をしていたのではないかと匠は思う。
男は未熟な匠を御することを楽しんでいる。
遊戯は面白い。
だが匠は、身体を提供した見返りが大き過ぎて、男と会うことに息苦しさを覚えた。
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